―本誌ライターの小山内さんによる、コラム「オタク学」。「オタク的な分野×社会学」というテーマのコラムです。―
漫画家・紗汐冴さんが、東京都の青少年健全育成条例改正問題に関連して、過去に自分の作品が「悪書」の見本として使われたことについてつぶやいている。どうやらBSのテレビ番組に自著が映ったことがきっかけらしい。
「実際に自著が都側に悪書の見本として使われた者として敢えて言わせて貰えば、今日までの規制条例に根本的に不満なのは、悪書の著者呼ばわりされた者には抗弁の機会も、将来の悪書指定解除のための手段も(法的に)無いことである。」
紗汐さんは都やマスコミが、情報操作により世論を方向付けようとしている風潮に、次のように警告を鳴らしている。
「私は、基本的には強固なゾーニングを設定する等には賛成の立場の人間である」
ゾーニングとは、購入や閲覧に年齢制限を設けるシステムのことだ。
「だからこそ、きちんと18禁コーナーにしか置かれてなかった筈の自著が都に利用されたことに疑問と疑念を抱かざるを得ない。」
紗汐さんの怒りは至極全うだ。表現規制反対派は政府の介入をひたすら拒むようなアナーキスト(無政府主義者)の集まりではなく、むしろゾーニングなどによって社会の秩序を保ちつつ、表現の自由と折り合いをつける点を探している方が多数派なのではないだろうか。
◆エロマンガ・同人は新人作家が育つ市場でもある
紗汐さんには「まだ子」名義でのエロ漫画の他にも、「小だまたけし」名義で『平成COMPLEX』という、史実とは違った歴史を歩んだ平成日本を舞台にした、青年向け漫画を連載していたことがある。
本作は憲兵隊の活躍を描くなどミリタリー色が強く一部では人気だったが、1巻であえなく打ち切りとなった。その後2巻以降に該当する内容を、同人誌としてダウンロード販売している。
紗汐さんのように、漫画家としてのキャリアの途中でエロ漫画やエロ同人を手がけている作家といえば、『天上天下』『エア・ギア』の大暮維人さんが有名だ。
他にも『セーラー服と重戦車』の作者・野上武志さんは、現代日本で女スパイが体を武器に暗躍するエロ漫画『大和撫子00七』を単行本として出しているし、『ヘルシング』『ドリフターズ』で知られる平野耕太さんは、一般向け以前にも「実名で」エロ漫画を商業誌に描いていた強者だ。
ところで、野上武志さんは過去に、「しけたみがの」名義で原作付き漫画『鋼鉄の少女たち』の作画を担当していたが、原作者を含めた制作サイド間で何やらいざこざがあったらしく、ファンタンジー仮想戦記モノとして軍事オタクからも注目を集めていたが、4巻で打ち切り。やはりその続きを同人出版している。
そういえば『ウルトラジャンプ』で連載していた本格仮想戦記『皇国の守護者』も、漫画好きの間で注目され人気を得るも、やはり制作サイドで問題が生じたらしく、5巻で打ち切りになっている。
一般紙でのミリタリー漫画には、内紛でコケるという呪いでもかかっているのだろうか?
※画像:(http://twitter.com/shiosae/status/26569806798921728)
(小山内)
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(参考リンク)
Togetter – 「都に自著を悪書の見本に利用されたまんが家のつぶやき。」
小山内 聡(おさない そう)
漫画とアニメとゲームが好きで軍事オタクの文系大学生。趣味はノンフィクションを読むこと。はてなダイアリー『日の丸海賊団』で書評を書いています。
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